お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
「きっときょうこそは。とにかく、毎日が新しい日なんだ」
「老人と海」の主人公サンチャゴは、84日間も不漁続きの自分に言い聞かせながら、カジキを求めて独り海に出て行く。
普通老人の場所では、死が近い、体力記憶力の低下、視力聴力低下等々が日常的で、様々に不便をきたす。
気をつけても食事中不思議と食べ物をこぼす。子供のころは、「きったねーな」と観ていたのだが、今は自分がその身になった。
先日自販機で缶コーヒーを買って、バス停で飲もうとしたらない。釣り銭忘れはよくあるが、目的のコーヒーを忘れたのだからショックは大きい。
色んなことが億劫になり、手間を省こうとする。手の届く範囲に物を集めるし、明日また着るからと畳まない。
5月下旬、念仏修養会のために柏崎へ行った。
郵便局の開局を待つために、近くのベンチに法衣姿で座っていた。80才位のおばあちゃんが目の前を通り過ぎ、引き返して来て、「隣り座っても良いですか」と、尋ねた。
どうぞどうぞと勧めると、ヨイショと座るやいなや、「和尚さん️、聞いて下さい」と、今日までの人生について話し始めた。
病気のこと、趣味のこと、故郷にUターンした時のことなどを一頻り語った後、「和尚さん私今ね、身体に光りを浴びて、人生が輝いて見えます」と言って、素晴らしい笑顔になられた。
続けて、「私し今身辺の整理をしています」と仰るので、「どうでしょう、苦境から光明に至るまでのことを文に綴ってみては」とお勧めした。「何年かかるか知れませんがやって見ます。和尚さんとは是非もう一度お話しをしたい」と、言って頂いたので、名刺を差し出して再会を約束した。最後におばあちゃんから、力強い握手とハグのプレゼントを頂きお別れした。
老僧とおばあちゃんが、人生について語りハグし合う場所は、光明に包まれていたかも知れない。そして、おばあちゃんは人生の整理のための、私は念仏修養のための、それぞれの「新しい日」が、始まった。合掌