多聞院お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
修学旅行を見送る私に
「ごめんな」とうつむいた母さん、
あの時、僕平気だったんだよ。
作 横川民蔵
日本一短い「母」への手紙より
何度読み返しても、胸を熱くする母への手紙である。
「平気だった」と言っても、全く、口惜しさや寂しさを感じなかった訳では無く、「耐えられた」、のだろうと推測する。
高校時代からの友人がいる。
入学時に与えられた席がたまた前後で、それからずっと親友でいる。
彼は不良グループのリーダー格で(本人の許可を得て書いています)、私は両親や叔母から、「彼と付き合うな」と言われていた。
英語のテスト時、後ろから答案を見せろと合図がくる。
「何で英語なんだよ。一番不得意なのに」と、怒りながら見せる。
結果、二人共全く同じヶ所を間違えて20点。
バレたら退学のカンニングまでして、20点しか取れないのは、もう喜劇である。
ところが3年に進級する直前、彼は本当に退学となった。
母校を代表して、他校のワル達と渡り合い警察沙汰となる。
事件を起こした夜、彼が私の家に泊まったので、全貌を聞いて知ってはいた。
職員会議の結果「退学」となり、親戚を頼って上京。
都内の高校に編入して、最後は大学まで進んだ。当時私は、彼を守れなかった担任を恨んでいたが、結果はオーライだった。
彼は数年前からしきりに、「皆んなで京都に行こうよ」と言う。
賛同者も少なく、日の目は見ないのだが、退学によって失った修学旅行を、今実現したいのかも知れない。
私達が京都、奈良への修学旅行に旅立つ日、既に東京の人となっていた彼は、東京駅に会いに来てくれた。
あの時、彼はどんな気持ちで、ルンルン気分の私達を見送ったのだろうか。
当時は彼の胸中を思いやれなかった。
今年は私一人でも、彼と京都に行こうと決めている。
新型コロナウィルスの影響で、競技大会、卒業式、修学旅行等が続々と中止になっている。
一生を通して、大きな思い出となる事だから、気の毒にも残念にも思う。
でも人生は長く、トータルである。
失ったように思える出来事も、時間と場所と形を変えて、甦ることがある。