お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
昨秋のこと、仏花を求めて量販店の花屋に行った。
枝物を抱えている店員さんに、「檀ですか?」と話しかけると、「この花の名前を知っている人がいるんだ。私は今日覚えたばかりです」と。
店頭ではあまり見かけない花種だが、花木好きの人には差ほど珍しい種類ではない。
「南淵の細川山に立つ檀 弓束巻くまで人に知らえじ」(『万葉集』作者不詳)
檀はニシキギ科の落葉低木。枝のしなりが良いので、古くは弓の材料とされた。真弓とも書く。そのまま解釈すると、「弓にしたい檀の木。成長するまで人に知られたくないな」となる。
その檀に思いをよせる女性を重ねて、「自分の思いが成就するまで、他人に知られたくない」との意味を隠している。
この歌に魅せらて、昔し明日香村南淵の細川山を彷徨ったことがあった。
「さ桧隈 桧隈川の瀬を速み 君が手取らば言寄せむかも」(『万葉集』作者不詳)
川の瀬が速いので君の手を取って渡りたいが、噂になってしまうだろかとの歌意。
彼女への思いを密やかに育てたい、詠み人の心が素直に伝わる一首である。
駅や街角で抱き合うお二人さん、いつか上の二首をじっくり読んで頂けたら、おじさんは超嬉しい。