漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
「春雨の露のやどりを吹く風に こぼれて匂う山吹の花」
詠み人は源実朝。和歌だけで右大臣にまでなったと陰口を叩かれるだけあって、萬葉調の繊細な歌で武士(もののふ)の匂いはない。
9月の末、漫画図書館の中庭に念願の山吹を植えた。田舎から運んだ受難の山吹である。生涯世話になった叔母の好きな花で供養をかねて育てていた。花の時期、自宅前の山との境界20メートルに及ぶ黄金のラインは見事であった。
数年前に林業業者が訪れて、前の山の材木を切りだしたいので土地を使わせて欲しいと言う。私は額に汗して働く労働者の味方。気持ち良く応じた。次に帰省した時、庭先で茫然と立ち尽くした。「えっ!!、あれー」、私の山吹は全て刈り払われている。
業者に問い合わせると、土地を借りた礼に綺麗にしたと言う。余計なことを。完全に枯れてしまうことはないが、復活するには何年もかかる。「恩を仇で返す」とはこのことだが、長生きしたい理由が一つ増えたってことで、水に流すことにした。他に術はない。
まだまだ容姿端麗とはゆかないが、「甦れ私の山吹、多聞院の庭で」