漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
高校三年の夏、母が体調を崩して入院した。間もなく父から「母ちゃんはもう駄目だから、気持ちを整理しておけ。弟は未だ小さいから言うな」と告げられる。
当時の病院は今のように完全看護ではなく、私が泊まりこんで母の世話をしながら学校に通っていた。10日に一度渡される高額な治療費の請求に、零細農家の家計は直ぐにパンク。仕方なく行政の補助を受けることになった。
暫くして、余命宣告を受けていた母が、回復に向かい出したのである。医療保護の更新のために市役所に出向くと担当者が、更新資格の有無には全くふれず、「諸澤君、お母さんの命救ったね」とおしゃった。市役所の帰り、岩村田でバスを降り、母の病院に向かう田んぼの中の細い一本道。
病院の背後の空は夕焼けで真っ赤である。
突然、市の担当者の言葉、「お母さんの命救ったね」が胸に甦り増幅してゆく。涙で顔をグチャグチャにしながら、経験のない美しい夕陽を全身に浴びながら歩いていた。
17歳の胸に宿り、生涯消えることが無かった言葉である。
この齢に達して私はそんな言葉を他者の中に残せているだろか?
皆無であったら、頂いた沢山の言葉を胸に届めて、生きているだけに寂しい。
合掌、至心十念。