お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
私は郵便配達を生業として、昭和46年から45年間も生きた。後輩からの情報で最近は随分生きづらい職場になったと感ずる。
現職時代の私の信条は「石にかじりついても、偉くならない。」で、当然上司との折り合いは良くなかった。
ある時、「君は何故昇任試験を受けないのか?。」と上司から問われた。
「受けたら合格するから受けない」のジョークを最愛の上司は真面に受けて、「お前は何様だ。」とご立腹。
「そうだな、僕も君の下では働きづらい」、などと受けてくれたら、草履を懐で温め申し上げたのだが。
こんな調子で生き残るには、2つの条件が必要となる。健康を保つこと。敵失を作らず攻撃の機会を与えないことである。
小雨降るある日の午後のこと。
配達が早く終わるも、最愛の上司の待つ局には帰らず、仲間と上水の横で談笑していた。
何気なく横の川面に視線を移して、30センチ程の鯉を数匹発見した。
近くの釣り堀から逃げたなと早合点。見るだけにしておけば良いものを、「小鮒釣りし彼の川、、、」が頭の中に流れだして、制服のまま童心に却ってしまった。
後のことを考えて理由は告げず、釣り堀から網を借りて友人と川に飛び込んだ。タイムリーにも雨合羽長靴姿である。
首尾よくすくい上げた時、小学生の少女が現れて、「おじさん、私が川に放してあるの。持って行かないで」と哀しそうに懇願した。
「仕事中の公務員、少女の気持ちを踏みにじる。」「郵政省、厳重処分の方針か。」
新聞の見出しを思い浮かべながら、友人と二人川の中で立ちつくしていた。
幸い魚にも郵便屋にも優しい少女で、首は繋がった。今頃きっと素晴らしい女性となっているに違いない。