お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
「あしひきの山のしづくに妹待つと
わが立ち濡れし山のしづくに」 ( 大津皇子)
長いこと君を待ち続けたので、夜露で足がすっかり濡れてしまった、との歌意。悲劇の皇子大津が、待ちぼうけをさせられた石川郎女に贈った歌だが、何ともいじらしい。
高校生の時、大きな牧場に住んでいる、同窓の女性に想いを寄せていた。勉強以外は一途な私。学校帰りの彼女がバスから降りてくるのを、時々バス停近くで待ち続けていた。
バスが着き、バスの中を移動する彼女を目で追う。ステップを降りる彼女の黒髪が、一陣の春風に揺れている。
「みすず刈る 信濃の牧に 渡る風
我背押せしも 歩み出せずに」 ( 自作)
面と向かっては告れない意気地無しの私は、彼女の下駄箱に手紙を潜ませた。しかし春風は無情で、微笑んではくれなかった。
大津皇子には、
「吾を待つと 君が濡れけむ あしひきの 山のしづくに 成らましものを 」 と、石川郎女の返歌がある。
返歌の内容からすると、大津皇子の恋は成就したように見えるが、そう上手くは行かなかった。この後直ぐ皇子は謀反の疑いで、叔母の持統天皇に処刑されてしまう。持統天皇の子、草壁皇子も石川郎女に想いを寄せていたので、処刑の遠因に「親バカ」が有るかも知れない。
私にも事件が起きたとしたら、ストーカ的行為により「停学処分」くらいだろか。
成就の代償が「処刑」では「回れ右」だが、「停学処分」で済むなら大歓迎である。
春風が今、彼女の消息を運んでくれたなら、
杉花粉の量には目を瞑ろう。