お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
西海岸のロスから入り、エルパソ、ヒューストンと南下して東海岸に至り、西海岸に戻って、「俺はアメリカを一周したぞー」というのが、旅の目的である。
従って文化も風景も余り興味はない。
ヒューストンで、4日間旅を共にした女子大生とちょっと未練を残しながらもお別れして、バスで首都ワシントンD.Cを目指す。
陽の高いうちに都入りして、さて先ずは今晩の寝ぐら確保である。
アメリカ一人旅鉄則3号、「安全は金で買え」に従って、高級なホテルを探し、ドアーボーイの横を胸を張って通り抜ける。
フロントで
「部屋は有りますか?」
と訪ねたら
お洒落でイケメンのお兄さんが、
「有りますが、本当にうちで宜しいのでしょうか」
と答える。
「あ、金が無いと思ってやがんな」
「大丈夫です」
と私。
一泊150ドルだったと記憶しているが、1ドル360円の時代だから、かなり高い。
「他の良いホテルを紹介しましょうか?」
とイケメン。
「あ、今度は身なりを見たな」
こんな事もあるかと、一応ジャケットを持っては来たのだが、中味は隠せないようだ。
「東洋系は差別を受けやすいから、気おつけてね」
と、日本を離れる時アドバイスをもらったが、そんな雰囲気では無さそうだ。
「泊めるのか泊めないのか、どっちなんだよー!」
と思いながらも言葉にはせず、
「じゃあ、ご紹介をお願いします」
と、軟弱な私。
イケメン兄さんが書いてくれた地図を片手に、ワシントンの街を迷いながら10分位歩いた。
たどり着いたのは割と有名な◯◯Innで、料金は体良く断られたホテルの3分の1。
チェックインした後おじさんが、小さなバック一つなのに持ってくれて、部屋まで着いてきた。鍵の扱い方を説明するのだが、主な目的はチップのようだ。
部屋に入ってまずは下着を洗濯して、それを暖房用スチームに掛けて干す。
こんなホテルライフが、私には合っているのかも知れない。
外は未だ明るいので、街を散策してみようと廊下に出て、
「あちゃー、鍵を忘れた。」
都会のホテルはもう開かない。さすがアメリカだー。
フロントに降りて訳を話すと、
「だから言ったじゃん」
ってな顔をしながらも、部屋まで一緒に来てくれた。が、再びチップを払う羽目に。
安いホテルに変更して相当倹約したから、まあ良いってことよ。
「でも安全を手放して、これで命をおとしたら高くつくな」
何て妄想しながら、街を彷徨う私であった。
(続く)