お寺の漫画図書館スタッフの酒井正空です。今回も引き続き仏教コミックスシリーズの『家庭のお経〈維摩経と勝鬘経〉』を取り上げたいと思いますが、今回は『維摩経』ではなく、『勝鬘経』を見ていきたいと思います。
『勝鬘経』はお釈迦様在世当時の仏教教団の最大外護者の一人、コーサラ国のプラセーナジット王(波斯匿王)とその妃マーリカー夫人の娘で、アヨーディーヤ(阿踰闍国)のヤショーミトラ王(友称王)に嫁いだシュリーマーラー夫人(勝鬘夫人)がお釈迦様の許しを得て、「一乗」「如来蔵」「法身」などをメインテーマとして仏教を解説していくという異色の経典です。正式な経典名は『勝鬘獅子吼一乗大方便方広経』と云って、つまり「獅子吼」は獅子が吼えるように雄弁に語ることを意味しており、勝鬘夫人が仏陀に代わって仏教を雄弁に語っていく内容です。
しかしこのマンガで描かれる『勝鬘経』は勝鬘夫人が雄弁に仏教教理を語る場面ではなく、勝鬘夫人が仏教に帰依する場面と誓願を起こす場面(このシーンも大変重要!)を中心に構成されいて、マンガの製作者の意図が仏教教理よりも「菩提心」に重きを置いていることが伺われます。
勝鬘夫人は両親より受け取った手紙に、「お釈迦様というすばらしいお方がいらっしゃるから教えを受けるように」と書かれており、それを読んだ勝鬘夫人は「聞くことさえ世にまれなほとけが現におわすという。真実ならばお姿をお見せになって、真心のこもった供養を受けたまえ。哀れみたれて空中に輝く姿を現したまえ。尊い光明を見せたまえ。」と述べます。それを受けてお釈迦様は即座に勝鬘夫人の目の前に示現なされ、勝鬘夫人へ「授記(未来世において仏陀となる予言)」を与えます。
このことは『華厳経』の「如来性起品」に「あらゆる世界において、深い宗教的志(増上意楽)を持ち、心が清浄で、かつ如来に心を傾け、瞑想の力と勢いをそなえた、菩提の器たる衆生たちの前にその姿をあらわす。」と説かれて、また「それらの衆生たちに対し、如来は『この上なく完全な(如来と同じ)さとりを得るであろう』との予言をなさる(授記)のである。」と説かれています。
仏教徒ならばこの勝鬘夫人の信仰心を見習ってぜひとも菩提心を発してほとけさまを目の当たりにしたいと思わずにはいられません。