お寺の漫画図書館スタッフの酒井正空です。
今回も引き続き仏教コミックスシリーズの『家庭のお経〈維摩経と勝鬘経〉』から『勝鬘経』を取り上げたいと思います。
前回は勝鬘夫人の仏教への帰依心を拝見いたしましたが、今回は勝鬘夫人の誓願を起こす場面を紹介していきます。
お釈迦様から授記(未来世において仏陀となる予言)を与えられた勝鬘夫人は続いて「十大受」と「三大願」と云われる誓願を起こしますが、「三大願」の場面は特に印象的で、勝鬘夫人が誓願を発(おこ)す時、お釈迦様の白毫が光るシーンが挿入されており今までの場面との違いが描かれています。
勝鬘夫人は「一、どうかわたしはいつの世にあっても正法(仏教の正しい教え)を理解することができますように。二、どうかわたしが正法を理解できたら怠けることなく多くの人々に教えを説くことができますように。三、わたしは身命を顧みず全財産をなげうっても正法を守り抜くことを誓います」と述べると、お釈迦様は「勝鬘夫人よ、無数の菩薩たちが起こす砂の数ほどもある無数の誓願も、すべてあなたの発した三つの誓願の中に含められてしまいます」と仰せになりました。このことは大変驚くべきことで、勝鬘夫人の「三大願」の中に阿弥陀仏の「四十八願」、釈迦牟尼仏の「五百大願」、薬師仏の「十二誓願」、普賢菩薩の「十大願」などがすべて収められるということになると思います。したがって勝鬘夫人の誓願はそれほどまでに大きなものであることが示されているのです。
仏教徒であるならば勝鬘夫人のような大きな「誓願」を発したいと思いますが、お釈迦様在世当時と違い、現代ではなかなかそのような誓願を発すことは難しいことですが、夢窓疎石禅師は『夢中問答集』の中で「『円覚経』に説かれている。末世の衆生は清浄(きよめ)の大願を発すがよい。どうか私は今、仏の円満な悟りの世界にとどまってよき導きの師を求めて、外道小乗のものに出会うことなく、次第に諸種の魔障を断ち切って、束縛を脱れて悟りを開き、清浄な宝殿に登りたいものだと。(中略)このような人をば、諸仏も大切に護り思い、諸天もお助け下さるからして、一切の障害災難を離れて、不退転の地位に到達すること、全く疑う余地がない。」と云って、私たちを励まして下さっています。