お寺の漫画図書館スタッフの酒井正空です。今回も引き続き仏教コミックスシリーズの『家庭のお経〈維摩経と勝鬘経〉』を取り上げたいと思います。
『維摩経』では序分でのお釈迦様の説法のあといよいよ維摩居士が登場します。維摩居士は前世において多くのほとけたちに謁見し、心から礼拝するという功徳を積んでおり、その功徳により在俗の身でありながら真理を見通す智慧や神通力などを身につけています。また維摩居士は、自ら学校、賭博場、花街、仏教以外の教会などの社会の様々な場所に出向いてあらゆる人々を巧みな方便によって導く人物であることが経に説かれています。
そしてこの『維摩経』で維摩居士は自身をあえて病の身に置き、見舞いに来る人々に教えを説く場面が主軸となって描かれています。「わたしたちの体は永遠不変なものではありません。苦痛や病気に満ちていて、もろく弱く頼りにならないものなのです。ですからみなさんに申し上げたいのは、この無常の体を頼りにするのではなく、ほとけの体をもつことを願うべきです。」と維摩居士は述べます。そのほとけの体とは真理そのものであり(法身)、無量の善から実現されるものであるから、私たちはその実現のために正しい智慧、布施、戒律、堅固な努力、同情や慈しみ、心を鎮める修行を実行してこのうえないさとりに向かって前進しましょうということが展開されていきます。
維摩居士は人々に自らの「生死観」と改めて向き合う機会を得させ、現在の個人のあり方のみを見て、生へ執着したり病や死を怖れる必要はなく、真理すなわち「法身」は仏陀の「体」であり生死に縛られない永劫の存在であるから、仏教徒はその「ほとけの体」を求めて修行し、世間的な価値観を超えたところから見る眼を持つことが大切であると教えているのだと思います。