お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
今考えると勿体ないと思うのだが、ワシントンD.C.には一泊し、スミソニアン博物館を訪ねただけで、ニューヨークに向かってしまった。
途中車内で中年男性から話しかけられて、次の休憩所でランチを共にした。
聞けばノースカロライナに住む大学教授とのこと。彼とは帰国後何回か文通をしたが、英作文が苦手な私は、段々面倒になり交流をやめた。
日本を離れる前に、「ニューヨークはアメリカで一番危険な都市」と驚かされ、地下鉄は乗るな、セントラルパークには入るな、ダウンタウンには近づくな、夜の1人歩きはするな、等々の戒めを頂いていた。
バスがターミナルに着いて、まず知り合った大学教授に別れをつげ、外にで出たら身震いがした。「ニューヨークに来たー」、って言う感動ではなく、心細さと恐怖に対する身体の反応である。擦り込まれた先入観は始末が悪く、向かって来る人に対して、「やられるかも」と根拠のない予期不安が生まれる。
まずは安全のために、背伸びをして高級ホテルに部屋を確保した。外に出て安そうなチャイニーズレストランで、早めの夕食を済ませる。ホテル内レストランのディナーは高価だし、何よりもウエイトレスさんと、希望するスープ、ドレッシング、焼き具合等々のやり取りが億劫である。
部屋に戻って翌日の観光計画を立てたが、自由の女神、タイムズスクウェア、エンパイアステートビルディングと簡単に決まった。
翌朝ホテルを出て自由の女神に向かう。途中朝食のためにハンバーガー店に入り、セットメニューを注文して席に着いた。席2つくらい離れた場所で、不審な動きをする中年男に気がついた。彼はホームレスらしく、客が残した食料を漁っている。
しばらくして、食事中の私の席にやって来て、プレート内のハンバーガーを持って行こうとする。
「俺まだ食ってんだ」の、簡単な英語が咄嗟なことで出てこない。
思わず左手でプレートを抱え、右手を振って「シー、シー」とやってしまった。
彼はそれ以上何もしなかったが、「一緒にどうですか?」とまでは行かなくても、もっとスマートな対応が有ったかも知れない。
翌日ケネディ空港で、窃盗未遂事件に遭遇するのだが、その話しは次回とします。