多聞院お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
何時も利用するバス停の脇に、小さなリンゴ園がある。
深まり行く秋の今朝、鳥害対策で覆われているシートの隙間から、しばらく覗かせて頂いた。
収穫前に陽を当てて、色づきを良くするのだろ、葉が摘まれて少なくなっている。
園の外に建てられた販売所には、「地方発送たまわります」の看板が出ていて、一瞬笑ってしまった。
信州のリンゴ農家出身の私には、東京から地方にリンゴが送られる、その発想がなかった。
しかし考えて見ると、都会からの「地方発送」は、単語的に極めて正しい。
私は平素、「美味しいものを食べたい」と言う願望がほとんどないので、味音痴である。
だがリンゴと西瓜に限っては、幼い頃からの経験値で、美味しさが少し分かる。
日本中のリンゴを食べ比べたわけではないが、佐久市望月の、従姉のリンゴ園が一番と思っているので、東京の店頭で買う事はない。
食わず判定も良くないので、今度バス停脇のリンゴ園で買って見ようと思う。
春遅い信州で、リンゴの花が一斉に咲くと、広いリンゴ園が真っ白に染まり見ごとである。
その一方で私達子供は、「あーあ、今年も嫌な仕事が始まんなー」と溜息をつく。
開花のあと、「摘花」と言う大変な仕事が始まる。リンゴの花は普通、真ん中の「一番花(中心花)」の周りに、5個くらいの花をつける。
大きな実になりそうな花を残して、他は先の細いハサミで摘んでしまう。
更に、売れるリンゴ一個を作るための、必要な葉数(約5〜60)を参考にして、各枝に残す実の数を決めてあとは摘む。
2メートルほどの脚立上の作業は能率が悪い。頑張れど頑張れど終わりの見えぬ仕事に、気持ちが段々と暗くなってゆく。
こんな時、白く満開に咲いた花たちを、恨めしく思うのである。
我が家がまだリンゴ農家になる前、小学生の頃の古い話である。
村の南側に前山城址があり、その南斜面にリンゴ園があった。
腹を空かした私はリンゴが欲しくなり、柵の隙間から這って侵入し盗もうとした。
リンゴを手にした瞬間、収穫作業をしていたおじさんに見つかり、親の名前か、担任の先生の名前を聞かれるかなと思いきや、
「食べたいだけ持って行きな」って。
あの寛大な一言のお陰で、今日の私が有るかも知れない。