多聞院お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
今年は残暑が厳しく長いので、秋が山から里になかなか下りこない。
浅しと言えども秋は秋、萩の美しい季節である。
草冠に秋で、さらに前に秋をつけて、『秋萩』と言うくらいだから、秋を代表する花である。
山上憶良の『秋の七草』でも、萩が最初に登場するので、愛されているんですなー、日本人に。
私も好きですが。
万葉集で詠まれる花のうち、萩は141首もあり、2位の梅118首を離してダントツである。
『秋萩は咲ぬべからしか吾が屋戸の
浅芽が花の散りぬる見れば』 穂積皇子
皇子は、
「浅芽(チガヤ)が終わったので次は萩だー」
と、萩の開花を心待ちにしている。
夏が終わり、段々と涼しさを増し、日が短くなり、感傷的になりやすい時期に、地味目に咲いている萩の花に気持ちがむく。
別の理由として
萩を女性に例える心情が、古代人にはあったようだ。
相聞歌(一般的には恋の歌)中に、萩=女性、鹿=男性として詠まれることも多い。
『秋萩の散りの乱れに呼び立てて
鳴くなる鹿の声の遙けき』 湯原王
この場合は萩=妻、鹿=夫である。
今はほとんど家庭では遊ばれなくなった『花札』で、萩は7月に登場し、猪が相棒となる。
鹿はモミジに拾われて絵札に収まり、しかも『猪鹿蝶』と一役を形成する仲の良さである。
「別れても好きなひと」、ってやつです。
幼い頃の正月に母の実家では、ミカンとピーナツを賞品として、花札が盛んにおこなわれた。
私が賭け事をしない理由は、あの時ミカンを奪われた悔しさが、今に生きているからだ。
脱線したので、『秋萩』に戻します。
奈良で『萩の寺』と言えば、何といっても『白毫寺』である。
他にも円城寺、唐招提寺、薬師寺、西大寺と、萩の名所寺は沢山あるのだが、なぜか白毫寺にスポットがあたる。
小さな山門に向かう階段の、両脇に枝垂れて咲く秋萩が、参拝する人々に感動を与えるのだろう。