お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
自宅が都の区画整理にかかり、新天地に引っ越した。入浴中に天井隅で何やらごそごそと音がする。「またハクビシンの襲来か」と心配しつつ、翌朝外に出てみたら何とツバメが巣作りをしている。
「ツバメは田んぼの上をスイスイ飛ぶ」が、私の原風景である。
だが我家のツバメは都会育ちらしく、ショッピングモールへ飛び立ったり、近くの畑に降りて餌を探している。「まるでスズメじゃん」などと観察しながら、日長私の方が遊んでもらっている。
今わが家のツバメの巣は、直径10センチ程の換気扇カバーの上だが、昔は家の中の屋梁にも作り、戸には出入り用の穴が有ったようだ。この事を知ると下の歌が理解しやすい。
「のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて
足乳根の母は 死にたもふなり」
「赤光」 斎藤茂吉
生涯に渡り私の道連れとなった歌の一つである。
一見全く関係ない「玄鳥」と「母の臨終」だが、実は同じ屋内で起きている情景である。
茂吉の母が息を引き取ろうとしている。無念さに唇を噛みながら顔を上げると、屋梁に停まった二羽の玄鳥が視界に入る。
のちに「実相観入」を主張する茂吉だが、この歌はその先駆けと言ってよい。
「ツバメに巣を作られると縁起が良い」と、私の家族は大喜びであるが、今年古希の我が身には、当てはまっていない。
屋梁は貸せなかったが、カラスからは守っていたので、「ツバメの恩返し」が有るかも知れない。
ツバメ一家に家族が増えて飛び立つ日、わが家族はきっと肩を落とすのだろう。
6月は母の祥月でもある。
南無阿弥陀仏
合掌 龍譽正俊