多聞院お寺の漫画図書館スタッフの諸澤正俊です。
春は誰にも待ち遠しいものである。「春が来たー」は季節だけでなく、「良いことが起きた」にも通ずる。
今日3月1日から、奈良に春を呼ぶと言う、東大寺2月堂お水取りの本行が始まる。
知り合いに仏教美術を研究している友人がいる。
彼の鞄持ちで奈良を歩いていて、何時の間にか私も奈良の魅力に取り憑かれた。
お寺の許可を得て、立ち会い付きだが、国宝の仏像を近くで仲間と拝観させて頂く。
マスクと白手袋を着用して、鞄持ちの私も学者気分である。
或る年「お水取り」を勉強する事になり、代表が東大寺塔頭から許可を頂き、2月堂内局で見学が可能となった。
私も鞄持ちからの解放を目指して、東大寺について必死に勉強した。
「お水取り」は、2月20日の練行衆の別火(戒壇院別火坊に籠り身を潔める)から始まる、修二会の儀式の一部に過ぎない。
修二会は2月堂内において、11名の練行衆によって「十一面悔過」が、一日6回勤められる。
この行は「不退の行法」とも言われ、天平勝宝4年(752 )に実忠和尚が初めてから、東大寺焼き討ち等の様々な困難の中にあっても、今日まで中止が一度もなく、本年は1270回を迎える。
3月12日のお水取り当日は、東大寺山門近くの日吉館を宿として、2月堂に登嶺する。
宿とは言っても徹夜行に参加するわけだから、荷物を置くだけである。
本日の見所は四つ。
1、2月堂の欄干を滑らす「お松明」
元々は夜舞台を歩く練行衆の足下を照らす灯りであった。
2、堂内達陀(たったん)の行。
火天役の僧が大松明を引きずりながら、堂内を回るのだが、国宝のお堂が燃えないかと、観ている私達ははらはらする。
3、「東大寺上院修中過去帳」の読み上げ。
創建の聖武天皇から始まり、歴代の天皇、僧侶の名前が奉読される。源頼朝の後辺りで架空の人、
「青衣の女人」の名が読まれる。
人気の瞬間だが、これには逸話がある。
或る年、僧侶が過去帳を読み上げている時、女人禁制の堂内に、青衣の女人が現れて、「何故私の名前を読み上げない」と抗議をする。名前を知らない僧侶は咄嗟に「青衣の女人」と読み上げ、以後ずっと続くことになる。
4、「お水取り」
深夜(13日1時半頃)、庄駈士がお堂下の「閼伽井屋」の若狭井で「お香水」を汲み上げ、本尊に供える。
これに先立つ3月2日、若狭の国小浜神宮寺において 東大寺2月堂への水送りの儀式が営まれる。
2月堂十一面観音に供えられる椿は、お籠りの練行衆の手作りである。
巨勢山のつらつら椿つらつらに
見つつ思はな巨勢の春野を
3月15日に「お水取り」は満行となり、万葉の古里、奈良に春がやってくる。